なぜポストモーテムは形骸化するのか?

2026/09/02
松浦 修治

はじめに

システム障害が発生すると、多くの組織では復旧後に振り返りを実施します。障害の経緯を整理し、原因を分析し、再発防止策を検討。この活動は「ポストモーテム」や「障害レビュー」と呼ばれ、ITサービスマネジメントにおいて重要な活動の一つです。

しかし、皆さんの組織では、そのポストモーテムは本当に機能しているでしょうか。

毎回資料を作成し、会議を開き、再発防止策も決めている。それにもかかわらず、似たような障害が繰り返される。振り返りの場では、「以前も同じような話をしましたよね」という言葉が聞かれる。気が付けば、ポストモーテムは「実施すること」が目的になってしまい、改善につながっている実感が持てない――そんな経験はないでしょうか。

一方で、もう一つ気になることがあります。

振り返りでは毎回、「原因は何だったのか」「どうすれば同じ障害を防げるのか」という議論に多くの時間が費やされます。しかし、「今回の障害対応そのものは適切だったのか」という議論は、意外と少ないのです。

つまり、多くの組織では再発防止には熱心でも、障害対応そのものを改善することには十分な時間を使えていません。

今回は、ポストモーテムが形骸化する背景と、本来目指すべき姿について考えてみたいと思います。

ポストモーテムの本来の目的とは何か

まず確認したいのは、ポストモーテムの目的です。

「障害の原因や真因を明らかにすること」「真因に基づいて再発防止を立てること」

そう答える方は少なくないでしょう。もちろん、それも重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。

障害原因を明らかにすることは、過去に起きた出来事を説明する活動です。一方、ポストモーテムは未来の障害対応をより良くするための活動でもあります。ここが埋もれやすいところです。

つまり、ポストモーテムには二つの目的があります。

一つは、再発防止を策定することです。場合によっては、システムを修正し、設定を見直し、監視を強化する。開発や運用のプロセスの改善も考えられます。これらは障害そのものを減らすための改善です。

例えば、データベース設定の誤りが原因でサービス停止が発生したとします。ポストモーテムでは、「設定レビューを追加する」「自動チェックを導入する」という改善策が決まります。これはこれで必要な改善です。

もう一つは、障害対応そのものを改善することです。初動判断は適切だったのか。情報共有は十分だったのか。エスカレーションのタイミングは適切だったのか。意思決定を支える情報は揃っていたのか。これらは、次に障害が起きたとき、組織がより良い対応を行うための改善です。

例えばです。障害発生から重大障害と判断するまで時間がかかった。利用者への最初の告知が遅れた。関係部署への連絡が重複した。復旧会議では議論が錯綜し、誰が最終判断をするのか分からなかった。もし、このような状況があったのであれば、必要なのは再発防止だけではありません。障害対応そのものです。

もったいないポストモーテム

ところが、多くのポストモーテムでは「何が原因だったのか」「どうすれば防げるのか」という議論に多くの時間が割かれる一方で、「なぜその判断をしたのか」「その判断を支えた情報は十分だったのか」「同じ状況になったら次はどう判断するのか」といった議論は十分に行われないことがあります。

その結果、再発防止は行われても、障害対応の成熟度は変わらないという状況が生まれます。

過去を振り返ること、再発防止を立てることは大切ですが、未来の障害対応を改善するための活動も重視するべきです。

障害は毎回違います。原因も異なります。しかし、障害対応という仕事には共通する要素があります。例えば、次のようなアクションは毎回実施しているはずです。状況を整理する。影響を把握する。情報を集める。基準を定めて判断する。情報を社内関係者へ共有する。社外利用者へ広報する。

これらのアクションは、どのような障害でも、真因が何であっても繰り返される活動です。つまり、障害対応には再利用できる知見があります。

このような知見がポストモーテムで十分に言語化されていないのはもったいないことです。

犯人探しではなく、事実に基づいた「判断」の振り返りを

ポストモーテムが形骸化する典型的な要因の一つが、「犯人探し」です。もちろん、誰も最初から犯人探しをしようと思って会議を始めるわけではありません。

しかし、例えばこんな問いが続くことがあります。

「なぜエスカレーションが遅れたのですか」「なぜこの変更を実施したのですか」「なぜこのログを見落としたのですか」

一見すると事実確認のようですが、質問の受け手は「自分の判断を責められている」と感じることがあります。すると、人は無意識のうちに自分を守ろうとします。

「当時は情報がありませんでした」「前例がありませんでした」「手順どおり対応しました」

こうした説明が増えると、会議は学習の場ではなく、防御の場になってしまいます。

本来知りたいのは、「誰が悪かったか」ではありません。知るべきなのは、「なぜ、その判断がその場では合理的だったのか」ということです。確かに、判断を誤ってしまうこともあるでしょう。しかし、その判断が導き出されたのは、情報が足りなかったり、取るべきアクションの認識がなかったり、頼れる関係者を知らなかったり、さまざまな経緯があるはずです。だとしたら、論点としては、どうすれば今後は妥当な判断ができるようになるか、です。

障害対応は、不確実な状況下での意思決定の連続です。十分な情報が揃うことはほとんどありません。後から振り返れば間違って見える判断でも、その時点では最も合理的だった可能性があります。

限られた情報で意思決定しなければならないからこそ、その判断を支えた情報や判断基準を振り返る必要があります。評価すべきは結果だけではなく、判断の過程です。

学習が起きない理由

では、なぜ学習が起きないのでしょうか。

心理的安全性が足りないからではないか、そう感じた方もいると思います。最近では、こうした説明を耳にする機会も増えました。もちろん、安心して発言したり、反対意見を言い合った雰囲気は重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。

仮に全員が自由に発言できる会議だったとしても、「何について議論し、学びを得るのか」が明確でなければ、議論は単なる感想の共有で終わってしまいます。

学習する組織は、意識的に論点を設定しています。

具体的には、「どの判断に必要な情報が不足していたのか」「重大度判定の基準は適切だったのか」「誰が、どのタイミングで意思決定すべきだったのか」というように、判断を構成する要素まで分解して考えます。

このように、目の前で起きた障害を深掘りするだけでなく、再発防止を策定するだけでなく、目線をひとつ上げて、障害対応のプロセスに踏み込んで振り返ることが大切です。

学習する組織は何が違うのか

障害対応が成熟している組織では、ポストモーテムの問いが違います。

例えば、「原因は何でしたか」だけでは終わりません。具体的には、「最初にどんな仮説を立てたのか」「その仮説は、どの情報を根拠にしたのか」「別の選択肢は考えられなかったのか」「もし同じ情報しかなかったとしても、違う判断はできたのか」のように深掘ります。

こうした問いを重ねることで、個人の経験が組織の知識へと変わっていきます。ベテラン担当者が持っている暗黙知も、このような対話を通じて初めて言語化されます。

結果として、「あの人だからできた対応」が、「組織として再現できる対応」へと変わっていくわけです。

ここで、「うちの組織には振り返る文化がない」という話を聞くことがあります。確かに文化は重要です。しかし私は、文化より先に考えるべきものがあると思っています。それは仕組み化です。

何を目的に振り返るのか。誰が参加するのか。どのような問いを立てるのか。どんな学びを残すのか。改善を誰がフォローするのか。

こうした仕組みが設計されて初めて、文化は育っていきます。文化だけを変えようとしても、具体的な行動は変わりません。

仕組みが備わると、「問い」が洗練されると、人の対話や行動も少しずつ変わり始めます。そして、その積み重ねが組織の文化になります。

良いポストモーテムは「再発防止」だけではなく「学び」を残す

ポストモーテムの最後には、多くの場合「再発防止策」が並びます。しかし、更に重要なのは、組織として何を学んだのかです。

例えば、「監視項目を追加する」という改善策があったとします。もちろん有効かもしれません。しかし、その背景にある学びが、「重大障害では、利用者影響を判断する情報が不足しやすい」なのであれば、監視だけでなく、運用手順やエスカレーション基準、状況報告の方法まで改善対象になります。

良いポストモーテムのためには、再発防止と障害対応改善を意識的に分けることをお勧めします。

  • 再発防止の問いの例
    • なぜ障害が発生したのか
    • どうすれば再発を防げるか
  • 障害対応改善の問いの例
    • 初動判断は適切だったか
    • 状況認識は共有できていたか
    • 役割分担は明確だったか
    • 利用者への情報発信は適切だったか
    • 会議運営は機能していたか

前者だけでは「障害が減る組織」にはなれても、「障害に強い組織」にはなれません。後者まで改善して初めて、未知の障害にも落ち着いて対応できる組織になります。

次のポストモーテムで取り組んでほしいこと

もし皆さんが次にポストモーテムを実施する機会があれば、真因に基づいた再発防止だけではなく、「私たちは何を学んだのか」「障害対応そのものに課題はなかったか」という問いも忘れずに実施してみてください。

そして、「あのとき、どの判断が難しかったのか」「その判断に必要な情報や判断基準は十分だったのか」を議論してみてください。

障害は、できれば起きてほしくありません。

しかし、障害から学べない組織は、同じ失敗を繰り返します。一方で、障害を学習の機会に変えられる組織は、一つひとつの経験を組織の力へと変えていきます。

ポストモーテムとは、過去を裁くための場ではありません。未来の障害対応をより良いものにするために、組織が学び続ける場です。その視点を持つだけでも、次の振り返りで交わされる会話は変わります。

そして、その小さな変化の積み重ねが、障害対応を「経験に頼る活動」から「組織が成長し続ける活動」へと変えていくのではないでしょうか。